乃木坂46と中国と神社と口パクの話

乃木坂46は中国でも人気があり、特に2018年から2019年にかけては上海で単独ライブをやったり、現地のファンクラブが開設されたり、かなり勢いがあった。新型コロナウイルスの影響で海外イベントは無くなったが、今でもほぼ毎月メンバーがWeiboで生配信をするなど、中国のファンは大事なお客さまとして扱われている。来年か再来年あたりに渡航制限が解除されれば現地イベントも再開されるだろう。

しかし、最近ちょっと不安な出来事が2つあった。

 

1. 神社の話

今年8月、中国の人気若手俳優が芸能界から追放された。原因は2019年にN木神社で行われた友人の結婚式に出席したことが発覚したためで、これをきっかけに2018年にY国神社界隈でも記念写真を撮っていたことが発覚し、ネット上で激しいバッシングを受けた後、謝罪も虚しくSNSのアカウントが削除された。所属事務所の社長を務める名女優も同時期に芸能界から追放されており、実際には政治が絡んだより複雑な問題とする見方もあるが、ここでは深掘りしない。

さて、N木神社やY国神社はどちらも都内にある神社だが、なぜ中国の俳優がそこへ行っただけで芸能界から追放されてしまうのか、中国にあまり関心が無い人は不思議に思うかもしれないが、要は「『軍国主義者』が祭られているから」である。これ以上はここでは触れないようにする。

もともとY国神社は中国で知らない人がいないほど有名で、日本の政治家が参拝すれば中国国内では大きなニュースになる。首相が訪問すれば複数の都市で大規模な抗議デモが発生するほどで、ほとんどの中国人にとってはまさに「憎き神社」である。 

一方、N木神社は今回の事件で急に有名になった。これ以前にこの神社のことを知っていた中国人は、たぶん、都内に住んでいる一部の人と乃木坂46のファンくらいだった。このため、今回の事件は「N木神社とはなんぞや」の解説付きで拡散・炎上した。

「N木」と聞いて乃木坂46との関係性に気づいた人もちょくちょくいたようで、実際に政府系メディアの環球網も件の炎上事件に関する記事の中で乃木坂46の名前を出していた。この件は日本のウェブメディアでも紹介されていたが、原文を見に行くと軽く言及されていた程度で「炎上」というほどではなかった。

world.huanqiu.com

值得一提的是,日本一个女子偶像团体“乃木坂46”的名字同样与N木希典有关。日本人有每年的新年第一天去参拜神社祈福的传统,“乃木坂46”每年新年参拜和团体成员的成人仪式,都会选在东京都港区赤坂的一处N木神社进行。

雑な日本語訳

注目に値するのは、日本の女性アイドルグループ「乃木坂46」の名前も同様にN木希典と関係がある点である。日本人は毎年正月に神社を参拝する習慣があるが、「乃木坂46」は毎年東京都港区赤坂にあるN木神社で新成人の儀式を行っている。

さて、乃木坂46とN木神社の関係についてSNSの反応を見ると、過激な言説もちょくちょくあったが、件の俳優が受けたバッシングと比較すれば「プチ炎上」といった感じで、すぐに収まった。ほぼノーダメージである。

重要なのは「中国人の間でN木神社がY国神社と並んで語られる『憎き神社』になってしまったこと」である。現時点でほぼノーダメージでも、そこには大きな火種がある。N木神社での成人式は、今年は新型コロナウイルスの影響で中止されたが、来年は実施できる状況になっているかもしれない。しかし、実施すれば中国の芸能界から追放とまではいかなくても、実害を伴う炎上は避けられないだろう。

念のため、勘違いしてほしくないのだが、個人的にはこんなことで炎上するのは馬鹿らしいし、これが原因で毎年恒例の成人式を辞めるくらいなら中国市場なんか諦めてしまえばいいとさえ思っている。現実的な妥協案は、(感染症対策を口実に)新成人メンバーの会見場所をホテルのイベントホールに変える、といったところか。

余談だが、乃木坂46は2018年に中国の西安で行われた日中友好系のイベントに招待され、初めて中国でライブをやった。これは運営に政府も絡んだイベントだった。

 

2. 口パクの話

中国で口パクの規制が始まるらしい。日本語だと「中国の政策について韓国のメディアが報じた」くらいの不確かなソースしか見当たらないので、原文を当たってみた。

中国政府の文化観光部が9月29日に"文化和旅游部关于规范演出经纪行为加强演员管理促进演出市场健康有序发展的通知"(「文化観光部 演者の管理を強化し公演市場の健全で秩序ある発展を促進するための規範的なマネージメントに関する通知」)なるものを出している。

www.gov.cn

(十一)演出活动不得使用造成恶劣社会影响的违法失德演员;不得使用含有《营业性演出管理条例》第二十五条禁止内容的图形、画面、音视频和文字等进行演出宣传、售票和演出场地布置等活动;不得组织演员假唱,不得为假唱提供条件。有未成年人参与的演出,应当经过未成年人父母或者其他监护人同意。

(十二)演员擅自变更演出内容或所表演内容、表演行为违反《营业性演出管理条例》第二十五条规定的,由文化和旅游行政部门依照《营业性演出管理条例》第四十四条、第四十六条规定,对演出举办单位以及该演员所签约演出经纪机构予以处罚。使用含有《营业性演出管理条例》第二十五条禁止内容的图形、画面、音视频和文字等进行演出宣传、售票和演出场地布置等活动的,由文化和旅游行政部门依照《营业性演出管理条例》第四十六条的规定,对演出举办单位予以处罚。以假唱欺骗观众或者为演员假唱提供条件的,由文化和旅游行政部门依照《营业性演出管理条例》第四十七条规定,对演出举办单位和演员予以处罚。

雑な日本語訳(太字部分)

(十一)...演者に口パクをさせてはならない。演者に口パクする条件(※筆者注:機会や環境のこと)を提供してはならない。...

(十二)...口パクで観衆を欺いたり、口パクする条件を提供した場合、文化観光部の行政部門が「営利を目的とした公演の管理条例」第47条の規定に基づいて開催組織と演者を処罰する。

というわけで、どこまで厳格に運用されるかは今後様子見が必要だが、口パクを前提としたライブ演出は難しくなる。中国でライブを再開するにしても、歌が上手いメンバーを中心に派遣し、ダンスは控えめになるかもしれない。

 

今日はここまで。